ホーム> 政策について> 審議会・研究会等> 社会保障審議会(年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会)> 第8回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会議事録
2012年10月30日 第8回 社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会議事録
年金局
○日時
平成24年10月30日(火)10:00~12:00
○場所
全国都市会館3階 第1会議室
東京都千代田区平河町2-4-2
○出席者
吉野 直行 (委員長) |
小塩 隆士 (委員) |
小野 正昭 (委員) |
川北 英隆 (委員) |
駒村 康平 (委員) |
武田 洋子 (委員) |
西沢 和彦 (委員) |
山田 篤裕 (委員) |
米澤 康博 (委員) |
金子 能宏 (国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部長) |
佐藤 格 (国立社会保障・人口問題研究所 社会保障基礎理論研究部第一室長) |
宮井 博 (日興フィナンシャル・インテリジェンス株式会社 専務取締役) |
○議題
(1)最近の計量経済モデルの一例について
(2)労働力需給推計について
(3)社会責任投資について
○議事
○吉野委員長 定刻より少し早めですけれども、皆様がおそろいですので、ただいまから第8回目の「年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」を開催させていただきたいと思います。
委員の皆様、御多忙のところをお集まりいただきましてありがとうございます。
本日は、植田委員だけが御欠席で、そのほかの委員の方々は全員御出席でございます。
それでは、議事に入らせていただきたいと思います。カメラの方は、ここで退席をお願いしたいと思います。
まず、事務局のほうから御連絡をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
○原口大臣官房参事官 資金運用担当参事官の原口でございます。最初に、この9月の人事異動により、事務局のメンバーに交代がございましたので御紹介させていただきます。
年金局長の香取でございます。
年金局年金課長の度山でございます。
年金局数理課長の山崎でございます。
次に、資料の確認をさせていただきます。
では、私、参事官の原口の方から、資料の確認をさせていただきます。
お手元の資料ですが、表紙に議事次第を1枚目にお付けしておりまして、座席図と名簿がございます。
資料1 2000年以降の世代重複モデル(OLGモデル)の利子率・賃金上昇率の長期
的推移の比較
資料2 労働力需給推計について
資料3 責任投資の動向-ESG投資とPRTの動向-
以上3点でございます。
お手元にございますか。不備がございましたらば、事務局のほうにお申しつけください。
次に、本日は、次第にあります1つ目の議題に関しまして、国立社会保障・人口問題研究所から金子能宏社会保障証基礎理論研究部長と佐藤格社会保障基礎理論研究部第一室長に来ていただいております。
また、3つ目の議題に関しまして、日興フィナンシャル・インテリジェンス株式会社の宮井博専務取締役に来ていただいております。
事務局からは以上でございます。
○吉野委員長 どうもありがとうございました。
それでは、皆様のお手元に議事次第がございますが、本日の議事は1~3までとなっております。まず第1番目の「最近の計量経済モデルの一例について」につきまして、きょうは国立社会保障・人口問題研究所から金子部長と佐藤室長にお越しいただいておりますので、資料1を使いながら御説明をお願いしたいと思います。
よろしくお願いいたします。
○金子部長 御紹介にあずかりました国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部長を務めます金子能宏です。私の左隣が、同じく社会保障基礎理論研究部第一室長の佐藤格でございます。
国立社会保障・人口問題研究所では、議題の(1)「最近の計量経済モデルの事例について」に関連しまして、社会保障の経済効果について、社会保障計量経済モデルの構築を長年行わせていただいておりました。社会保障の計量経済モデルには幾つかのタイプのモデルがございます。過去のトレンドを踏まえた幾つかの経済部門を連立方程式で表現した計量経済モデルの方法。もう一つは、きょうご紹介いたします人口推計に対応して、現在の人たちと将来の人たちの消費と貯蓄行動が経済モデルの中にあって、内生的に利子率や賃金率や、そのほかの経済要素がどう決まるのかについて重点を置いた、世代重複モデル(OLG:Overlapping generations model)のようなモデルもございます。また、国際貿易あるいは世界経済の相互依存関係、政府と地方の関係についての分析が得意な、計算可能な一般均衡型モデルもございます。今回は年金問題ということなので、将来の人口推移に非常に関連の深い世代重複モデルを取り上げて皆様に御紹介することになりました。
テクニカルな部分については、佐藤第一室長のほうから御報告したいと思います。
吉野委員長、よろしいでしょうか。
○吉野委員長 はい。どうぞよろしくお願いいたします。
○佐藤第一室長 今、御紹介にあずかりました国立社会保障・人口問題研究所社会保障基礎理論研究部第一室長の佐藤と申します。よろしくお願いいたします。
きょうは、「2000年以降の世代重複モデル(OLGモデル)による利子率・賃金上昇率の長期的推移の比較」というテーマでお話をさせていただきます。
まず、利子率や賃金率が、最適化の構造を前提としたような経済学のモデルの中でどういうふうに決まっているのかということにつきまして、世代重複モデル(OLGモデル)を使って計算している例が幾つかあります。
後ほど具体的な比較をするなどもう少し詳しい説明を致しますが、利子率や賃金上昇率自体を求めることを目的としてモデルを使って計算している例はそう多くありません。しかし世代重複モデルを用いて分析をする際に、その中で利子率や賃金上昇率といったものが決まってまいりますので、利子率あるいは賃金上昇率がモデルの中で明示的にどんな値をとっているかということを、論文の中にそれらの値が記述されているような幾つかのモデルについて取り上げて、比較してみたいと考えております。
(PP)
最初に、世代重複モデル(Overlapping generations model)について、どのようなモデルであるのかということを説明させていただきたいと思います。
まず、このモデルの特徴は、個人や家計の最適化を考慮した経済モデルであるということです。個人や家計の最適化を考慮した経済モデルには幾つかの種類があります。2番目のポツの下のところに「代表的個人の想定」とありますが、このような家計の最適化を考えた一般的なモデルとして、1人の個人がいて、その人に経済全体を代表させて、その人がどういう行動をしているかによって経済の動きを見るというものがあります。それに対して世代重複モデル(OLGモデル)については、生存期間が有限であるという人が複数人存在することを想定しています。つまり、代表的個人の仮定を置くような状況では1人の個人しかいないと考えられていた部分が、OLGモデルに関しては2人以上の個人がいると想定されています。しかも、人々の生きる期間が違うということで、もう少しいろいろな分析ができるようになっています。
3番目に、実物モデルであるという想定を置いています。つまり、物価変動についてはこのモデルが考慮できないというところが少し弱い点ですが、その代わり、利子率や賃金率については最適化の中で求めることができます。
OLGモデルにはいろいろなパターンがあります。最も簡単な例として、まずは2期間のモデルを使って説明したいと思います。
一番簡単なモデルは、若年期と老年期の2期間にわたって個人が生存することを想定しているモデルになります。各時点におきまして、若年期に当たる世代と老年期に当たる世代が同時に存在するように想定しています。若年期あるいは老年期にそれぞれどういう行動をするかというと、若年期には労働を供給しまして、それによって賃金を得ます。同時に労働で得た賃金を消費と貯蓄に振り分けます。老年期になりますと、労働を行わず、若年期の貯蓄をもとにして消費を行うと考えます。この点について、モデルの中の年齢を細分化してサーベイした論文としては、川崎先生と島澤先生が書かれた論文などがあります。
この2期間モデルをイメージとしてあらわしてあるものが右に書いてあります。t期、t+1期、t+2期というように年が離れています。例えばt期に老年期を迎える世代を第i-1世代、t期に若年期、t+1期に老年期になるような世代を第i世代とします。同じように、第i+1世代、第i+2世代と考えていきますと、例えば第i世代であればt期に若年期であり、この人たちはt+1期になったら老年期になっています。さらにt+2期にはもう死んでしまうというような状況を想定しています。そういう意味で、四角で囲った部分が、各世代がどのように生きるかということを考えているものです。
それに対して、t期あるいはt+1期、t+2期というように、その期、その期で行っている人々の経済行動を集計することも必要です。若年期の人は消費や労働供給、貯蓄をしますし、老年期の人も消費をしますので、消費の総量が幾らになるか、あるいは、貯蓄の総量、労働供給の総量、そうしたものが幾らになるかというものを計算するには、楕円で囲ったようなt期、t+1期の変数を集計する必要があります。
さらに、研究の系譜としてOLGモデルの始まりについて述べますと、最初はSamuelsonの静学的モデル、あるいは、Diamondの動学的モデルといったものがありました。それから15年ぐらいたちまして、若年期、老年期のようなものではなく、1歳から75歳とかの形でかなり長い期間をとって大規模にシミュレーションを行い始めたのが1980年代ごろからの流れです。Auerbach-Kotlikoffの1980年のモデルから始まりまして、1983年、1987年とだんだん細分化されていくようになってきまして、1987年頃からは社会保障制度なども取り入れられてきました。
さらには、日本でも同じ1987年に、本間先生や跡田先生、岩本先生、大竹先生のモデルといったものがありまして、そこからどんどんいろいろなパターンが発展してきたということになります。
(PP)
年金制度を分析にするに当たりまして、このOLGモデルはいろいろ利点があります。そうした長所についてまずお話しします。もちろん、これで全てがうまくいくというわけではないということで、留意点についても少しお話ししたいと思います。
まず長所として、このOLGモデルを使うと、世代ごとの消費行動あるいは貯蓄行動を計算することができます。今度はさきほどの2期間モデルよりもさらに細分化した例で説明します。例えば、網かけになって「2010年世代」と書いてあります。このグラフで言うと、2010年に20歳になって経済に参入する人を2010年世代と定義しています。2011年になればその人たちは21歳、2012年には22歳になりまして、例えば100歳で死亡すると考えれば、2090年までは生きますが、2091年以降は、その世代はもう生存しないというように想定することができます。
そのように、2010年世代だけではなくて2011年世代の人、2012年世代の人と、各世代が生涯にわたってどんな行動をするかということを詳細に記述することができます。これは、先ほど申し上げました図で言えば、斜めに計算しているということになります。
一方で、例えば2010年の時点で存在している人たちがどういう行動をしているのかということを見たいということであれば、「2010年」と書いてあるところを横に読めばいいわけです。つまり、2010年世代の行動、2009年世代の行動、2008年世代の行動、これら各世代の行動は、先ほど申し上げましたように斜めに計算して値が与えられています。そうした各世代の値を2010年の時点で切って取り出し、集計することによって、その時点の消費額、貯蓄額、あるいは労働供給量がどのようになっているかを計算することができます。
このように計算することによってどんな利点があるかといいますと、各世代がどのようにお金を徴収され、それがどのような給付に結びついているかということを明らかにすることができます。年金制度は、若年層から保険料を徴収して高齢者層に給付を行うことになりますので、若年期の世代と老年期の世代が同時に存在する世代重複モデルは、年金制度を分析するに当たっては非常に便利なツールになっています。先ほども申し上げましたとおり、個人の最適化行動の結果を反映した計算ができます。さらに、各個人の行動を毎年集計して、それによって経済全体ではどのような消費の水準、あるいは、貯蓄の水準が得られるかということを計算することができます。
ただし、個人の行動をまず計算して、その上でさらにそれを各年で集計する作業が必要ですので、個人ベースの消費経路の計算と年ベースの賃金や利子率の収束計算、こういう2つの計算が必要になります。コンピュータの性能が上がってきていますので、計算はある程度速くできるようになってきましたが、それでもやはり膨大な計算量が必要になるということで、どうしても時間がかかってしまうということがあります。
(PP)
計算について、もう少し補足的な説明をします。計算にあたっては、まず人口や生産活動などについてのパラメータなどを与えます。その上で、賃金率と利子率について仮置きの値をまず与えて、それをもとに各世代の消費の計算を行います。消費の計算を行ったことで、ある賃金率、ある利子率が与えられたときの最適化の行動が求まるわけですが、仮置きした賃金率や利子率が最終的に、先ほどお見せしました2010年時点の横の計算を行った結果として出てくる利子率や賃金率と一致している保証はないわけです。もし、最初に仮置きした値と最終的に集計した値が一致していれば、そこで計算は終わりになるわけですが、その値が違った場合には、集計した値から計算された賃金率・利子率を使ってもう一度計算をやり直しましょうということで、新たに計算された値を仮置きして、それをもとに消費や貯蓄の計算を行うことになります。
この計算を何回も繰り返しているうちに、最終的に、仮置きした値と集計した値から計算の結果として出てきた賃金率や利子率が一致することになりましたら、収束が完了したということで、計算は終了になります。
(PP)
今までOLGモデルの特徴につきまして説明しましたが、これから先は、最近書かれた論文を取り上げまして、それらの論文がどのような想定を置いているのか、あるいはどのような特徴を持っているのかということを詳しく見て、最後に、それらの論文の中で利子率や賃金上昇率あるいは経済成長率がどのような値になっているのかということにつきまして、グラフでお示ししたいと思います。
ここでは7つの論文を取り上げてそれぞれに示された世代重複モデルについて説明したいと思います。特に特徴となる部分として、生産関数、労働供給、技術進歩の想定、人口、計算期間といったものをお示ししております。生産関数につきましては、基本的にはどのモデルについてもコブ=ダグラス型の生産関数を使っています。ただ、木村・橋本論文につきましては多部門モデルとなっておりまして、一つ一つの部門についてコブ=ダグラス型の生産関数を想定していることになります。
次に、労働供給につきまして、下の注のところにも書きましたけれども、ここでは労働供給量を賃金等に依存しているモデル内で決定するモデルとそうでないモデルを挙げています。まず効用関数等の中に余暇が含まれていて、自分が賃金を見て、それで余暇と労働の選択をしてどれだけ労働を供給するか決めるものを労働供給を内生にしているモデルと表記しております。一方で、賃金の水準に依存せず、労働供給は毎期一定の量だけ誰もが供給すると想定しているモデルは、労働供給を外生と表記しております。
次に、技術進歩の想定につきましては、どんな想定かによって、最後の方のスライドのグラフでお示ししますGDPの成長率にも影響が出てきます。ただ、基本的には、0%と想定しているものが多めになっています。これは、OLGモデルを使った研究の主な目的はGDPの成長がどのくらいになるのかということではなくて、何かしらの制度を変えたときにどういう影響があるかといったものを分析することにあるからだと思われます。もちろん、GDPが必要ないわけではありませんが、それについてそこまで丁寧に仮定を置くよりも、それよりももっとやりたいことがあるということで、技術進歩の想定については0%、あるいは0.2%や1.0%くらいの少し低めの値を設定していることが多いようです。
人口につきましては、ほとんどのものが社人研の将来推計人口の2002年1月推計あるいは2006年12月推計を使っています。特徴があるのは小黒先生のモデルで、これは人口が内生ということで、子供の数が増えることによって自分の効用が上がるということを考えており、この場合におきましては、人口成長率も内生になります。
最後の欄の「(参考)佐藤」は私どものものですが、これは論文としてどこかに出しているわけではありません。以前構築した世代重複モデルをもとに、人口については最新の2012年の人口推計を使って再計算したものです。
計算期間については結構長い期間を想定することが必要になります。これには理由があります。OLGモデルのシミュレーションでは、計算を繰り返し、全ての変数が動かなくなる定常状態と呼ばれる状況をつくりだして、そこまで計算することが必要になるからです。
したがいまして、人口の変動が繰り返されるような状況になりますと、その時点では定常状態と定義することができません。そういう意味で、人口の変動もなくなったと見なされる状況ということで、2200年とか2300年、2500年などという相当長い期間の計算を行っているということになります。
(PP)
さて、比較に用いるOLGモデルの要約ということで、これから7本の論文を取り上げまして、それについてお話をしていきます。
最初に、Fehr et alの論文です。これについては、移民の増加と公的年金の民営化、この2つが与える影響を分析しているモデルです。しかも、ここから先で取り上げるようなモデルは国内モデルですが、このモデルに関しては、アメリカ、EU、日本の3つの地域を考えまして、その地域の中で資本の移動もあるモデルを想定しています。さらには、子供の効用を考慮して、子供が消費することによって自分の満足度も高まるというような想定をしているところに特徴があります。
この論文から得られる結論は3点ありまして、高齢化が進んだいずれの地域、EUや日本がアメリカと比べると高齢化が進んでいる地域になりますが、そういう地域では資本ストックが減少します。それによって、高齢化の度合いの違いから、資本がアメリカからEUや日本に流れるという結論が得られています。
また移民を増加させたとしても、その効果は余り大きなものにはならず、小さなものにとどまります。しかし一方で、公的年金を縮小することによって長期的な厚生を大きく高めることができるとされています。
さらに、公的年金を縮小するような制度に変更した場合、既に中高年世代となっているような家計は厚生が悪化しますが、その程度は比較的軽微なものであるとされています。それに対して、若年世代については、公的年金の縮小によって将来世代の厚生が大きく改善するとされます。
このモデルの特徴として、さらに4点挙げております。このモデルでは、23歳から労働市場に参入し、68歳から90歳までの間に死亡する、つまり最長でも90歳までしか生きられないと想定しています。したがいまして、67世代が同時に存在するようなモデルということになっております。
また、最初にもお話ししましたが、各世代の効用は、みずからの消費と子供の消費の2つから発生していると想定します。生産については、労働と資本によりなされます。利子率についてはどのように求められているかというと、3本の式のうち最後の式ですが、限界生産力原理によって求められると想定しています。
これから先の各スライドにつきましては、式を2本ないし3本書いております。上から順に、効用関数として、どのように家計が満足度を得ているか、次に生産関数として、どのように経済全体での生産がなされているか、さらには、利子率がどのように決定されるのかを示しております。
(PP)
次に、「川出ほか(2003)」というモデルについて説明します。このモデルにつきましては、社会資本が蓄積したときの厚生への影響を分析しております。特徴としては、公債残高や社会資本等を明示的に出していることがあります。このモデルの結論として、公債残高を削減することによって、短期的には負担が上がったりしてGDPを低下させることもありますが、長期的には、GDPあるいは効用水準を高める効果があるとされています。
さらに、公債残高を一定に保つことによって、社会資本の蓄積が将来世代にとって望ましい効果を持つ、つまり将来世代の厚生を高めるとされています。ただ、生活基盤型社会資本を効用関数の中に入れていますので、生活基盤型社会資本が大きくなることによって自分の満足度が高まるというような想定に立っていますが、この点につきましては、生活基盤型社会資本がどう評価されるのかといったことによって大きく依存していますというような留保がついています。
モデルの特徴が4つあります。20歳で労働市場に参入し、生存確率に従って死亡していくことが考えられています。最大で99歳まで生きるという設定です。各世代の効用につきましては、消費と生活基盤型社会資本から発生すると考えます。さらには、社会資本については、これまであったような労働と資本に加えて、生産基盤型の社会資本からもなされるというふうに想定しています。利子率については、先ほどと同じように、限界生産力原理によって求められると想定しています。
(PP)
次に、「川出(2003)」の論文に移ります。これにつきましては、税による資源配分のゆがみを考慮した世代間の再分配効果を分析しております。課税をどのように行うかによって厚生が変化することも想定しております。
先ほどの「川出ほか」の論文と比べてどのように違うかといいますと、一番大きな特徴としては、労働供給を内生化しているということにあります。さらには、複数の財政再建の方法を検討するということを考えております。その中で、このモデルから得られた結論として、財政再建を行うことによって短期的には生産が悪化するということがあります。しかし長期的に見れば、生産は増加していくことになります。
さらに、現在でも相当の公債残高がありますが、それを考えると、早急に財政の健全化を図ることが必要であると言われています。また技術進歩があることによって、生産や租税負担が改善されるということがあります。あるいは出生率の変化によって若い世代が増えれば、その分負担を減らせるようにますが、その世代が働きだすまでに相当時間がかかることを考えますと、現役世代に及ぼす影響はわずかなものにとどまるという結論が得られています。
モデルの特徴として4つぐらいあります。先ほどのモデルと同様に、労働市場に20歳で参入して、生存確率に従って死亡する。効用、生産、利子率に関しても、先ほどの「川出ほか」の論文と同じなので、ここについては省略して次に移りたいと思います。
(PP)
次に、「木村・橋本(2008)」モデルに移ります。これにつきましては、多部門モデルを考えて、その中でモデルを構築していることが一番の特徴になります。歳出削減の対象の違いが経済に与える影響をどのように考えるか、あるいは、消費税の増税をした場合、その効果はどのようになるかといったことを検討しています。歳出削減の対象の違いとお話ししましたが、一般会計の支出につきましては、教育、公共投資、その他と3種類に分類しているところに特徴があります。
支出を削減した場合の総生産の減少度合いを考えますと、教育支出あるいはその他の政府支出、先ほど申し上げたように、教育、公共投資、その他の3種類に分けるということですが、そのうちのその他の政府支出を削減することは、公共投資を削減するよりも総生産を減少させる度合いが大きいことになります。
さらに、中期的には、消費税を増税したほうがGDPの数字も高くできるということになります。しかし一方で、長期的には、公共投資と教育支出を削減することによってGDPが高くなるという結論が得られています。
モデルの特徴は4つあります。23歳で労働市場に参入し、最終的に81歳まで生きることを考えています。寿命の不確実性はなしということで、23歳で労働市場に参入した人たちは、途中で一人も死ぬことなく全員が81歳まで生き続けて、そこで死ぬと考えています。各世代の効用につきましては、消費と遺産から発生すると想定しています。生産につきましては、労働と資本からなされると想定しております。
このモデルにつきましては、論文中に利子率の決定方法について明示的に式が書かれているということがありませんでしたので、その式は書かず、効用関数と生産関数の式のみを記述しております。
(PP)
次に、「蓮見・中田(2010)」論文に移ります。このモデルにつきましては、OLGモデルと保険数理的なモデルを連携させたところに大きな特徴があります。これまでのモデルは、財政再建であったり、年金制度であったり、そうしたものを分析する中で、利子率や賃金率などを求めてきたところがありますが、この蓮見・中田モデルにつきましては、OLGモデルを使う目的が、賃金率と利子率を計算することにあります。そしてOLGモデルから賃金率や利子率を求めることによって、それを年金財政推計の経済前提を算出するためのツールとして使いましょうということを考えております。すなわち、政府推計との比較可能性を考えつつ、ただ、賃金率や利子率といったものにつきましては世代重複モデルで示される経済学的な想定を生かしましょうということを検討しているモデルということになります。
このモデルから得られる結論は大きく2つあります。1つ目は、人口の減少及び高齢化の進行がもたらす影響ですが、被保険者の減少という直接的な効果が一つあります。それに加えて、高齢化が進むことによって運用利回りが低下するというような間接的な効果もあります。この両方の効果がありまして、人口減少と高齢化は年金財政に対しては不利に作用すると想定しております。
2つ目として、高齢化とライフサイクルというダイナミックなマクロ変動のリスクにつきましては、先ほどお示ししましたように、高齢化が進むことの間接的な効果というようなダイナミックなマクロ変動のリスクもきちんと考慮しなければいけないということが、このモデルの結論として挙げられます。
モデルの特徴は、4つあります。20歳で労働市場に参入しまして、生存確率に従って死亡していきます。各世代の効用は消費から発生すると想定します。生産は労働と資本によりなされまして、利子率は今までと同じように、限界生産力原理から求められると想定しています。
(PP)
次に、「小黒ほか(2010)」のモデルについて説明いたします。このモデルの一番の特徴として、人口を内生化していることが挙げられます。その中で、子育て支援の拡充、年金給付の削減といったことがどのような影響を与えるかといったことについて分析しております。さらに、財政再建の可能性についても分析しております。
このモデルから得られる結論は、4つあります。一つは、財政の持続可能性を余り考慮しないという状況であれば、公債を財源として子育て支援を拡充することによって将来世代の効用は最も高まるということになります。
ただ、公債を発行し続けることによって財政が破綻する可能性があります。そういった意味で、財政の持続可能性を考慮しつつ、子育て支援を拡充することを考えています。その場合には何かしらの財源を手当てしなければならないわけですが、財源に関しては、資本課税に求めることが最も望ましいと考えられております。
さらに、将来世代の効用を改善するためには、子育て支援の拡充とともに財政再建をセットで行うことが望ましいということになります。年金改革につきましては、給付削減が考えられますが、それよりも保険料の一部を消費税で賄うといったことのほうが、将来世代の効用が改善するという結論を得ています。
モデルの特徴は5つあります。21歳で労働市場に参入して、85歳で死亡するという想定です。このモデルにつきましては、寿命の不確実性はありません。つまり、21歳で労働市場に参入した人たちは、一人の漏れもなく85歳まで生き続けて85歳で死亡すると想定しています。各世代の効用は、消費のほかに子供の数によって生じると想定しています。そのために子供を何人にするかということを自分たちで決めるという意味で、人口も内生化されることになります。生産は労働と資本の2つから行われまして、利子率については、ほかのモデルと同様に、限界生産力原理から求められると想定しています。
(PP)
最後に、「佐藤(2012)」です。これは以前構築した世代重複モデルに最新の将来推計人口を適用した再計算でして、論文の形でどこかで発表しているわけではありませんが、最新の将来推計人口に基づくOLGモデルによる再計算結果ということで御報告させていただきます。
このモデルの一番の特徴は、2012年に社人研が出しました新しい人口推計に対応したモデルであるということです。最後の参考文献に書いてありますが、以前構築したモデルに「佐藤・上村(2006)」というものがあります。それをもとにして人口の項目を改め、あるいは、生存確率など、そうした人口に関連する部分でいろいろ入れ換えて再計算したものがこのモデルということになります。
このモデルは、年金財源の調達方法と国庫負担の水準の変化が経済厚生や再分配に与える影響について分析したモデルになります。モデルの特徴として、2種類の遺産ということで、消費としての遺産と意図せざる遺産を考えていることが挙げられます。自分はもっと長く生きると思っていることによって資産を持っている場合でも、途中で生存確率に従って死亡した場合には遺産が生じる場合があります。そうしたものが意図せざる遺産となります。もうひとつは、資産を子どもに意図的に残すことで親に効用が生じることに着目したもので、これを消費としての遺産と呼んでいます。後ほど説明しますが、このモデルは最長105歳まで生存すると想定していますが、105歳の時点で、自分がさらに子供や孫に残したいということで意図的に遺産を残したものを、モデルの中で消費としての遺産として扱います。
2006年のをもとにしておりますので、政策変更の影響を見る点では若干古いところがありますが、2004年の年金改革世代間の公平性の確保には有効であり、この改革によって世代間の公平性がある程度確保できたという結論が得られました。また、年金財源の一部を消費税あるいは年金課税で賄うことによって、年金収益率の平準化あるいは経済厚生の上昇が可能になるのではないかという結論を得ています。
モデルの特徴は4つあります。1つ目として、20歳で労働市場に参入し、生存確率に従って死亡していきます。人口推計が2006年の推計から105歳まで生存すると改められましたので、このモデルでも最長で105歳まで生存することを想定しております。各世代の効用につきましては、消費のほかに余暇と遺産から発生することを想定しています。生産につきましては、これまでのほとんどのモデルと同様に、労働と資本からなされます。利子率につきましても、ほかのモデルと同様に、限界生産力原理から求められるという想定をしております。
(PP)
今、紹介した7本のモデルをもとに、これらのモデルにつきまして、利子率や賃金上昇率あるいはGDPの成長率がどのようになっているかということについてお話しします。
利子率や賃金上昇率、GDP成長率を比較するというようなお話をしましたが、この7本の論文は、利子率については記述がありました。しかし、賃金上昇率、GDP成長率につきましては、論文内に記述がないものもありました。そういうものにつきましてはグラフから落としてあります。
さらに、特に賃金上昇率などは、賃金率がどのくらいかということがあったとしても、それが上昇率の形になっていないものもありました。そこで、グラフ作成に当たって、こちらで賃金上昇率やGDP成長率というように、成長率、上昇率の形に計算し直したものもあります。
さらには、論文中に数字で書いてあればいいのですが、グラフしかないものもあります。それにつきましては、論文中のグラフをもとに、新たにどのくらいの数値になるというものを確かめて作成したものになりますので、もともとの論文の数字からは多少のずれがどうしても存在してしまうかなというところがあります。これらの点が留意事項です。
また、値は基本的に5年間隔でプロットしています。論文によっては1年間隔で数字が出ているものもありますが、5年間隔のものが多かったので、5年間隔でプロットしております。
さらに参考として、財政検証において賃金率と利子率がどのように示されているかといったことにつきましてもグラフの中では示しております。
幾つか、これからの比較についての注意点があります。何回かお話ししておりますが、ほとんどのモデルは利子率や賃金上昇率の水準そのものを求めることを目的としているわけではありません。先ほどの蓮見・中田論文は、賃金率と利子率を求めれば、それで少なくとも論文中でのOLGモデルの役割は終わりとなっていましたが、ほかのモデルにつきましては、何かしらの政策を評価することを考えていまして、その中で、利子率や賃金率といったものをモデルの中で示しているにすぎないことになります。したがいまして、あくまでもこのような数字は、こういうモデルの想定の中で出たものということで、そのまま比較していいものかどうかにつきましては、少し注意して見る必要があるかもしれません。
GDPの成長率についても同様です。技術進歩の設定によって成長率が相当変化する可能性があります。その可能性につきましては基本的には余り分析がされていません。したがいまして、成長率のグラフを一応お示しはしますが、それについて論文の著者がGDP成長率はこのくらいであるというように意図して書いているかというと、そういうわけではないと思いますので、そこのところも注意が必要かもしれません。
(PP)
それでは実際に、各シミュレーションから得られた利子率の推移をお示しします。Fehr et alの論文につきましては、相当高い値をとっています。最初のところで申し上げましたように、この論文は国際資本移動を想定した3地域のモデルになっています。その結果として、日本の利子率についても、アメリカ、EUとともに同じ利子率の水準をとることになります。この結果、この論文における利子率は相当高い値になっております。
一方で、そのほかの論文につきましては、全て日本だけの閉鎖経済モデルとなっていますので、高い値をとっているということなくて、大体5%から1.何%程度で推移していることが見られます。
点線で財政検証のグラフを示してあります。最初のほうは変動しまして、2020年ごろから3.1%ぐらいで推移しますが、それと比べると、それよりももう少し高いモデルも結構ありますし、一方で、それよりも低くなっているようなモデルもあります。モデルの中で利子率とされるものは実物資産からの収益率ですので、一般的に想定されます利子率よりもある程度高めに出る傾向があります。したがいまして5%くらいまでは計算の結果でもあり得るかと思います。一方で、低い場合には2%を切るような数字になることもあり得ます。さらに、これから人口推計が新しいものに変わったり、いろいろなパラメータの設定を変えたりすることによっても、利子率の推移に変化があるかもしれませんので、どのような数字が出るかについてもう少し慎重に検討していく必要があるかと考えております。
(PP)
次に、賃金上昇率について説明します。これにつきましては、財政検証では最初のほうで少し変動して、あとは1.5%で推移する形になっています。それに対して、ほかのモデルでは、もう少し低い値をとっています。一番高い蓮見・中田モデルでも1%前後のところを上下変動しているような形ですし、あるいは小黒モデルや佐藤モデルなどを見ますと、賃金上昇率はマイナスになってしまうというような状況があります。人口が減っていくような状況の中で、経済成長率も落ちていくために賃金上昇率もマイナスになってしまっています。この辺につきましても、次のGDP成長率とあわせまして、技術進歩の置き方によっていろいろな影響があるかと思いますが、とりあえず、今示されているような賃金上昇率は結構低めの水準になっていることが見て取れると思います。
(PP)
最後のグラフでは、GDP成長率の推移を示しております。これにつきましてはもう何度もお話ししていますが、技術進歩率が余り高い想定になっていないことと、人口成長率が負になるということの影響を受けて、ほとんどのケースでGDPの成長率がマイナスになっています。GDP成長率がプラスになっている木村・橋本モデルにつきましても、1%を切るようなかなり低い値になっています。
(PP)
最後に、OLGモデルの計算についてお話ししたいと思います。最初のほうでもお話ししましたが、各世代の各年齢について、まず最適化の計算を行います。それを集計して、さらに賃金率や利子率の収束計算を行うということになります。さらに、その値が違っていれば、その計算を何回も繰り返すことになりますので、どうしても膨大な計算量が必要になります。したがいまして、計算速度を求めると、FortranあるいはCといった言語を使うことが一般的です。ただし、最近では、TROLL、Matlabといった数値解析ソフトもありまして、それを使って計算することなども増えてきています。
また、Web上でOLGモデルのプログラムが幾つか公開されています。例えばアメリカでは、アメリカの連邦準備制度の調査に関するホームページで、Auerbach-Kotlikoffモデルが公開されています。あるいは、日本においては、先ほど論文の中で木村・橋本モデルがありましたが、その橋本先生のホームページ、あるいは、佐藤・上村モデルを紹介しましたが、その上村先生のホームページなどで、OLGモデルはどういうふうに計算されているかというプログラムについて公開しているところがあります。
(PP)
最後に参考文献をしました。下線が引いてあるものは、今回モデルの特徴を紹介したものです。また報告の中で名前を挙げたものがありますので、そういった論文につきましても記してあります。
私からの報告は以上です。どうもありがとうございました。
○吉野委員長 佐藤室長、どうもありがとうございました。
きょう御発表いただいた背景には、委員の皆様は御承知でしょうけれども、数回前に、植田先生から、OLGモデルを使った最近の学会の動きがあるので、各国でやっているこういう推計にはそういう世代重複モデルがないではないかということで、前々回、諸外国の例をいろいろ調べていただきました。わかったことは、諸外国も結構プリミティブなモデルで、学会と大きな開きがあると。そこでまた、社人研のほうで世代重複モデルをつくられていましたので、現状、日本ではどうなっているのかということで、きょう御発表いただいたわけであります。
それでは、委員の先生方から御質問あるいは御意見がございましたら、どなたでもお願いします。
では、山田委員、それから米澤委員の順にお願いします。
○山田委員 非常に詳細な、日本に関する世代重複モデルの御紹介をいただきましてありがとうございました。大変わかりやすくまとまっていて、理解しやすかったです。
私からは1点、感想めいたものと、もう1点は質問をさせていただきたいと思います。
感想めいたことで申し上げますと、諸外国については、前回、事務局側の紹介で、モデルどころか、過去の実績の数値に基づいてさまざまな経済前提を決めているということで、した。その対極にある、今、OLGを紹介していただきましたが、資料の13ページを見るとわかるとおり、閉鎖経済モデルという限定をつけましても、利子率に関しては1%台から5%台の開きとか、賃金上昇率に関してもネガティブからプラス、GDP成長率についてもネガティブからプラスと、結構ばらつきがあるというのが感想です。OLGモデルにしろ、普通のモデルにしろ、TFPの置き方によってかなり左右される部分もあることがわかって、非常に興味深かったというのが感想です。
質問ですが、OLGモデルは計量経済学の分野においては最新の手法で非常に興味深いのですが、年金財政における経済前提の設定について使う場合には、やはり透明性が重要です。誰が計算しても同じような結論に行き着くところが非常に重要な点でございます。どういうふうにそういう結論を導き出したかトレースできるということが重要だと思います。
そこで質問になりますが、気になるのは、2ページの左下にOLGモデルの留意点の一つとして、賃金や利子率の収束計算が重要であると。ここにも労力が非常にかかるという点です。そこで具体的な質問に入りますと、要は、収束をさせるために、初期のパラメータ設定が重要になってくるという理解ですが、このパラメータの設定によってどのように収束の値が異なるのか、もし、パラメータの設定で収束値が大きく変わるのであれば、それはパラメータの設定で結果がぶれるということになりまして、先ほど申し上げましたように、透明性の観点からすると、非常に洗練されたモデルという理解ではありますけれども、そこら辺が問題かなという気がします。最初のパラメータ設定によって賃金上昇率、利子率など、そういった収束がどう異なるのか、大きく異なる可能性はないのかということについて教えていただければと思います。
私からは以上です。
○吉野委員長 先に幾つか質問を受けて、それからお答えいただければと思いますので、米澤先生、どうぞ。
○米澤委員 3点、質問とお願いがあります。
最初の点は今のところと関連してです。これは、個人というか、家計がオプティマイゼーションするわけですね。そのときに、少なくとも、この計算の仕方と整合的に理論を考えると、完全予見でそのとおりになるという格好で解いているのか。要するに、来期以降の賃金、ここで言う利子率、限界生産力、それが全部わかっていてオーバータイムに再展開して、そういうようなところに行き着くまで解いているのか。要するに、そこに住んでいる人も完全予見のところで生活しているんですかということの確認をお願いしたいと思います。
2点目は、恐縮ですけど、リマークさせていただきたいと思います。実質のレベルの利子率は限界生産力で決まっているというのはそのとおりですけど、同時に、家計の消費のプリファレンスと同時に決まってくるわけですね。二次元で書くと同じで接線ですので。逆に言うと、それによって資本ストックが決まっていると見ることもできるわけですから、資本ストックが最初にできて、その限界生産力で決まっているというのは、結果はそうですけれども、同時に決まっているということは、何を言いたいかというと、プリファレンスのところの割引率(時間選好率)のようなものも当然影響してくるわけですね。ということを確認したいと思います。
というのは、利子率を、最近は、不確実なマクロ経済モデルにおけるコンサンプションのほうから求めているんですね。プロダクションではなくて。本当は同時ですけど、コンサンプションのほうがデータがよく取れるとか、素直ということなので、そちらから求めていることもあるので確認させていただきたいと思います。
3点目は、直接我々には関係ないですけど、仮にリスクが全くないときの公的年金はどういう意味ですか。全く貯蓄の代替ですか。保険機能はないわけですね。貯蓄の代替と考えて、しかも、キャピタルストックにならない貯蓄代替ということでいいわけですか。
以上の3点です。
○吉野委員長 それでは、佐藤室長から、まず初期パラメータのところと完全予見モデル、利子率が消費者と生産のところ、そこはモデルの点だと思いますので、お願いします。
○佐藤第一室長 御質問、ありがとうございました。
まず1点目、パラメータの設定によって結果がぶれる可能性ですが、幾つかのパラメータにつきましては、計算する中で、何種類かの値を設定して動かしてみています。ただ、それだけを目的にして計算したことが余りないので、どの程度まで結果がばらつくのかということにつきまして、申し訳ないですが、今のところは正確な計算結果を持っていません。
ただ、余りにも変な値を設定してしまうと、それによってモデルの計算が収束しない、つまり途中で発散してしまったりするというところもあります。ただし、発散するからという理由でそのパラメータをはじくというのもよくないやり方というか、そういうパラメータを除外するというのもよくありませんから、そういうパラメータも含めて全て検討した上で考えなければいけないところです。したがいまして、パラメータ設定の幅の問題はこれからの課題であります。
とりあえずは、具体的にどのパラメータをどう動かしたかということをきちんとお示しできるものがないのですが、これから幾つか検討してみまして、どういう想定を置いたときにどの程度のパラメータであればどういう結果のぶれであって、何%くらいずれるかといったことにつきましても、これからもう少し詳しく検討してみたいと思います。余り答えになっていなくて、済みません。
○吉野委員長 2番目の完全予見について、お願いします。
○佐藤第一室長 モデルによって生存確率が入ってくるものにつきましては、平均的に自分は何歳まで生きる、あるいは、最長で何歳まで生きるということはわかっていても、例えば次の年に自分が死ぬか生きるかということにつきましてはわからないわけです。そういう意味で、先ほどお話しした、意図せざる遺産のようなものも発生するということで、本当の意味での完全予見ではないですが、一応、あらゆる情報を使っているという意味では完全予見に近いような状況を考えていると認識しております。
あとは、利子率の決定につきまして、割引率も関係しているという御指摘についてはそのとおりです。そこのところについて先ほどの説明で用いた世代を表す図でいけば、斜めに計算しているという部分がありました。個人の仮置きした利子率などの値をもって、それで消費や貯蓄などの推移を決めるというところに関しては、当然、割引率が幾らになっているかによって毎期の消費の額は変わります。そういう意味で割引率が関係していまして、割引率をどう置くかによって、当然、毎期の消費の量も異なりますし、それによって利子率あるいは賃金率といったものも変化してくると想定しております。
最後の年金の意義につきましては、それに関する答えが今うまく思い浮かばないのですが、確かに、そのように、何歳まで生きるとかわかっていれば、年金の意義はどこにあるのかと言われたときに、正直、答えづらいところがあります。済みません。
○米澤委員 それは、まあいいですよ。
○吉野委員長 ほかにございますか。いかがですか。
では、駒村委員、どうぞ。
○駒村委員 2点ほど質問があります。
1つ目は、まずコメントとしては山田先生と全く同じで、非常にエレガントで、最新の研究を御紹介いただきまして、大変ありがとうございました。
ただ、感想として、経済前提委員会でこの評価をするに当たってはいろいろと気になることがあります。1つ目は、やはり山田先生がおっしゃった収束の部分のところが、今の説明ではちょっとよくわからない部分があることと、3ページのところで、「各種パラメータを与える」となっていて、どういうパラメータをどういう根拠で選んでいるのか。
それから、4ページで、例としては、労働供給を内生化した場合に賃金に依存するとなっていますし、あるいは、小黒モデルでは、子供の数も内生的に選ぶとなっていますけれども、これはどういったモデルで、どういう弾力性のようなものを考えているのか。そういう選んでくるパラメータは、学会でどの程度のコンセンサスがあるパラメータになっているのか、そういうところが、こういう透明性がある議論をするときには非常に気になるところであります。
また、学会の研究ですから、各人がいろいろと創意工夫していろいろなモデルをつくられることはそのとおりだと思う一方で、遺産の行動にしても、遺産の経済モデルを学んだのはもう20年も前で、その後はどう発達したかわかりませんけれども、一つは、利他的な遺産行動とか戦略的な遺産行動、不確実性に対する貯蓄行動などがあるわけでが、これは経済学会のほうで何かコンセンサスがあって、これが一番いいとなっているのか、それとも、それはどれを選ぶかは研究者の問題意識次第であるという考え方でいいのか。要するに、個々の理論モデルも非常にバラエティに富んでいるのではないかと思います。
後半の部分はコメントに近いですが、1点目はパラメータの選択について、どのように選んでいるのかを確認させてもらいたいと思います。
2点目は、これを見て、5ページの整理のところにも書いてあるように、政策を変えたら各世代の厚生がどう変わるかということを確認する研究だと思います。したがって、研究の重点が、将来の年金とそれにかかわる経済状況を予測するほうに重きを置いているのではないように見ていますけれども、その辺はどうなのか確認させていただきたいと思います。
○吉野委員長 もうお1人くらい、御質問があればお願いします。
○川北委員 ありがとうございました。パラメータに関しては、今、駒村委員がおっしゃったとおりで、私もそれは質問したいと思っていました。
もう一つ気になっているのは、13ページのグラフを見させていただくと、開放経済を想定しているアメリカの例などは、すごく高い利子率が出ていますし、かつ、本当にやろうとすると開放経済を想定するほうが望ましいと思います。そのときに、この論文を読んでいないので教えていただきたいのですが、なぜこのように高いというか、現在のアメリカの状況においてもなかなか通用しないような数字になっているのか、そのあたりがおわかりでしたらお願いします。
以上です。
○吉野委員長 では、佐藤室長、どうぞ。まず最初に、パラメータに関して。
○佐藤第一室長 パラメータにつきましては、一つは、過去の研究が幾つかありまして、それをもとに、過去にどのような値が置かれているからということを根拠にしているところが多くて、先ほどもお話ししましたけれども、余り変な値を与えると収束しないといったこともありまして、パラメータの設定についてはある程度収束が可能な範囲で値を想定しています。パラメータの値によって推計がどれだけ変わるかということを厳密に行う感応度分析という方法もありますが、世代重複モデルの多くの研究では、政策の効果分析に主眼があって、この分析まで詳しく行っているものはあまり見られません。多くの論文で、パラメータの設定は、基本的に過去の研究を参考にして行っています。
○吉野委員長 金子部長が答えていただいたほうが早ければ、お願いします。
○金子部長 補足しますと、世代重複モデルの初期値の設定の仕方は、人口推計や資本ストックについては初期時点の経済の情報がわかっているので、人口や経済の与件についての初期値は日本経済の実態を反映するような値を与えておいて、しかしその一方で、消費と貯蓄の選択に関わる時間選好率などの部分については、そのモデルが収束するように調整するという方法を用いています。このようにすると、個人の貯蓄を足し合わせた総貯蓄と総労働供給から資本労働比率が現実の国民経済で見られるような値に決まり、これから限界生産力原理を通じて利子率や賃金率も決まり、推計月間の将来における経済全体の推移がわかるようになります。調整するという点をもう少し詳しくお話しすると、ある世代重複モデルの推計で仮に10個のパラメータの設定がひつようだとすれば、そのうちなるべく多くの、例えば、7個のパラメータについては現実の経済を反映させるように、なるべく精緻にパラメータを設定し、残りの3個の部分については、逆にモデルが収束するように調節するというような細かい設定をすることで、山田先生が御質問なさっていた、あるいは、駒村先生も御質問なさっていた収束の問題と将来推計の初期値がどれだけ現実にフィットしているかについてのバランスをとるようにします。ただ、その10分の7なのか、10分の8なのか、10分の6なのかは、モデルをつくった人と、モデルをつくった人の目的に応じて按分していくというところで、そこは佐藤室長がお話ししたとおり、あいまいなところもあります。けれども、論文あるいは学会では、初期値はできる限り現実に近いものにしようという慎重な姿勢がとられています。
あと、Fehr et alの論文で、アメリカが随分と利子率が高いのは、リーマンショック前の初期値に依存しているということが影響しています。逆に、ヨーロッパ危機が世界経済を引っ張るとすると、例えばスペイン等々の南欧諸国の利子率がうんと上がる。金融商品との裁定があって、国債の利子率が高水準に上がっていくと、国際的な様々な金融商品の利回りも上がっていく傾向が生じることによって、将来のヨーロッパの影響が日本の利子率にも影響するので、将来、金融商品の利子率の水準がゼロなのか、7なのか、8なのかということについてはまだまだ大きな不確実性があります。世代重複モデルの比較に当たっては、少なくとも、閉鎖経済モデルなのか、開放経済モデルなのかでどう違うのかを見るための一つの傍証としてアメリカのモデルを出したのですが、それは、発射台がリーマンショック以前ということで、それが若干影響していると考えております。
米澤先生の御質問で、基本的に世代重複モデルは年金財政としては賦課方式を想定してつくられているので、年金制度の役割は働いている世代から高齢者世代に所得移転をして高齢者世代も生活が成り立つようにして経済が回っていくようにするということになります。世代重複モデルはこのような年金制度を想定してその効果分析する道具なので、個人貯蓄勘定というような部分がなかなか入っていないというところでは、十分ではない面があります。企業年金を含む3階建ての年金制度全体を見ると、その一部分を精緻化して将来推計に役立てていくということが今後の課題になるかもしれません。
あともう一つ。世代重複モデルは将来予測・将来推計のためではないという、駒村先生のご指摘はおっしゃるとおりです。各研究者あるいはモデルをつくった人の目的に応じてモデル内の政策変数を動かしてその効果を分析するのが世代重複モデルの主眼ですが、将来人口をモデルに組み入れて将来の年金給付や貯蓄・消費の動向がわかるという点で、推計が一部含まれているというのが正しいと思います。
以上です。
○吉野委員長 小塩委員、どうぞ。
○小塩委員 質問ではありませんが、このOLGモデルについて私もちょっとかじったことがあり、若干コメントさせていただきます。OLGモデルは、非常に使い勝手のいいモデルです。長所としては、個人の行動が内生化されているところがあり、経済分析上非常にいい面だと思います。経済全体で見ても、資本蓄積や労働供給、人口動態が内生化される点は非常にいいと思います。それから、世代間の効用が比較できることもいいと思います。
ただ、何人かの先生方が既に御指摘されていますが、やはり欠点といいますか、短所があると思います。一つは、これは駒村先生も御指摘されましたが、一番根っこになる個人の効用の前提、行動の前提がやや恣意的な点です。ほかの世代をどこまで思うかという利他的な行動を織り込む度合いによって、結果が左右されるという面があると思います。
それから、代表的な個人を想定していますけれども、要するに、各世代を代表した人を登場させているということです。しかし、同じ世代でもいろんな人がいますね。所得の高い人から低い人まで。そういう人たちで構成されているという世の中の多様性は、そこまでは分析できない。最近、そういうモデルもありますが。
それから、もうちょっと深刻なのは、米澤先生がおっしゃった点でもありますが、このモデルは年金を積極的に評価するモデルでは必ずしもありません。枝葉を全部取り除くと新古典派の成長理論の構造になっていますから、要するに、資本蓄積に対してプラスかマイナスかだけで結論が決まるわけです。そうすると、賦課方式の年金はゼロのほうがいい、ないほうがいいという結論が初めからあるわけですね。そこからスタートするのは、私もそういうことを言っているわけですから、自分で自分の首を絞めるところがあるんですけれども、これは正直に言わないといけない。
それから、税の選択においても、資本蓄積に悪さをするような税は初めからダメになります。ですから、賃金所得税や資本所得税よりも消費税だという結論が初めから出ているんです。そういうバイアスがあるということを認識しておかないと、フェアではない。これは言えると思います。
では、どのように活用すべきかということですが、私は、私たちが今持っている財政検証の伝統的なモデル完全に代替することは難しいと思います。OLGモデルはやはり、このモデルの性格上、予測を目標にしていません。政策の評価を目標にしていますから、性格がちょっと違う。それから、私たちがとても知りたいTFPについては、これも外生的だということで、余りメリットがありません。それから、先ほど申しましたように、社会を構成する多様な人がいるにもかかわらず、各世代を代表する人を1人ずつ登場させているにすぎないということですから、精緻にはなっているけれども、現行モデルを代替させるのにはちょっと問題があるという気がします。
ただ、補完はできると思います。どういう点でできるかというと、いろいろな政策を同じ土俵で比較できることが最大の強みだと思います。その政策変更をしたときにどういう影響を及ぼすかというマクロ経済のフィードバックをきちんと内性的に捉えた上で、しかも、個人も反映させた上で分析できるというのは非常に強みだと思います。
そこでは、世代間の問題も出てくると思いますが、世代間格差をどう評価するかというのは非常にコントラバーシャルな論点ではありますが、数字は出てくる。これは政策評価をする上でやはり重要な論点だろうと思います。
もう一つは、社会保障と税の一体改革がこれから始まると思いますけれども、ほかの公的な政策、特に財政政策と同じ土俵で議論できるというのも、結構強みではないかと思います。きょう佐藤さんに紹介していただいたモデルでも、財政政策との関連性で社会保障や公的年金の改革のあり方を議論している試みが幾つかありましたけれども、せっかく社会保障と税の一体改革という枠組みができたわけですから、そこでは最大限活用していただければという印象を受けます。
以上です。
○吉野委員長 そろそろ時間になります。このモデルは、生産関数が主体ですから、需要サイドが入っていないので、先ほどの消費のようなところにフォーカスがないということと、ぞさから、パラメータの与え方によって絶対水準が違ってくるでしょうから、恐らく、皆様の御意見としては、一つの参考の数字として使うことには意義があるのではないかと思います。それから、政策の比較をするときに、生産関数サイドからの政策の比較だと思いますけれども、そこでさまざまな政策も比較できると思います。
本日は御報告をどうもありがとうございました。
○佐藤第一室長 ありがとうございました。
○吉野委員長 それでは、まだまだ御質問があるかもしれませんけれども、時間の関係で、次の「労働力需給推計について」を、事務局から御説明をお願いしたいと思います。
○山崎数理課長 それでは、資料2ですが、お時間の関係がありますので、ごく簡単に説明させていただきます。
ことし1月の新人口推計を反映した労働力の需給推計というものが雇用政策研究会の報告書ということで、この8月に発表されましたので、概略、こういうものですということをかいつまんで御紹介させていただきたいと存じます。
このシミュレーションで紹介されているものは、一つは、経済成長を達成できないまま、現在の労働力率が変化しない、政策効果がほとんど出ない場合のシミュレーションということで、これにつきましては、2030年の就業者数が2010年と比較して845万人減になるということで、これは成長の大きな阻害要因になるということをシミュレートしております。このような場合には、労働供給自体が大幅に減少して内需拡大の期待もできないことから、日本経済はほぼゼロ成長状態に停滞する事態が考えられます。
一方で、労働供給の面につきまして、女性、若者、高齢者などの労働市場への参加が進むケースのシミュレーションを、適切な経済成長が実現することを前提に実施しますと、2030年の就業者数が6085万人と、2010年と比べて213万人減にとどまるという結果が出るということで、これは雇用政策の推進によりまして、成長を担う産業が効果的に雇用を創出するとともに、人材育成によって産業の高付加価値化が図られて適切な経済成長を維持するという、質量両面の労働力が供給されることになります。
資料をおめくりいただきまして、グラフで見ていただきますと、2030年までの就業者数のシミュレーションということで、一番右の欄が2030年で、2つの棒グラフで比較されています。経済成長と労働参加が適切に進まないケースは左の棒グラフですが、こちらは2030年の就業者数が5,453万人です。これが、右の棒グラフ、進むケースのほうでは6085万人ということで、その差が差し引き630万人になります。これを年齢階層別に見ますと、60歳以上のところで290万人増、30~59歳のところで250万人増、15~29歳のところで100万人増、こういう分解になっております。
次の3ページ、下の欄でございますが、こちらは男女別に見たもので、上段が男性です。こちらにつきましては、全体で630万人増のうち280万人増が男性で、そのうち170万人の増は60歳以上のところでもたらされます。右側のグラフで見ていただきますと、矢印で示してありますように、男性の場合は高齢者の労働力率が上がることによって就業者増がもたらされる効果が一番大きくなっております。
下の段が女性です。女性の場合は、全体で360万人増のうち、30~59歳のところが190万人増とボリュームが一番大きくなっています。右側のグラフで見ていただきますと、矢印があるところ、いわゆるM字カーブの底が持ち上がる効果が一番大きく見込まれております。
次の4ページは、独立行政法人労働政策研究・研修機構が推計を発表したときのプレスリリースでございます。今、御説明申し上げました2つのケース、ゼロ成長Aが政策効果が全く発現されないケースです。一方、中段のあたりにあります成長戦略Cは、実質2%成長程度で参加が進む場合。これは、今、申し上げました進むケースですが、こちらの研修機構では、その中間として慎重Bというケースも発表しています。これは、実質1%成長程度で、参加が一定程度とする場合です。この3通りの推計が行われております。
簡単ですが、このような発表されましたということの御紹介をさせていただきました。以上でございます。
○吉野委員長 山崎数理課長、ありがとうございました。
それでは、次のテーマであります「社会責任投資について」に移りたいと思います。
日興フィナンシャル・インテリジェンス株式会社の宮井専務、よろしくお願いいたします。
○宮井専務取締役 皆さん、こんにちは。宮井です。よろしくお願いします。
(PP)
きょうは、お手元の資料にありますように、大きく3点についてお話をさせていただきたいと思います。
1点目は、責任投資原則というものが、今、特にヨーロッパを中心に進展していまして、その状況についてお話しさせていただき、受託者責任との関係で少しお話しさせていただきます。2点目は、年金基金におけるESG投資の動向ということで、今、海外、それから日本でも少し動きがあるようですので、その動向をお話しさせていただきます。3点目は、このESG投資が、実質、パフォーマンスに影響しているのかどうかという議論がありますので、その分析をした例をお話しさせていただきます。
お話の前に、先日、IMFのラガルドさんという女性の専務理事が、NHKの「クローズアップ現代」で、日本の計算力、成長性は女性にかかっているというお話がありました。今回、私がお話しするESGの中のSの観点が、実は雇用の問題であるとか、女性労働力、企業としてどのように活性化するかという観点も、実はこのSのところに入っています。児童労働などのマイナスのところもありますが、プラスの観点で、このSが今後重要ではないかと思っています。
(PP)
まず1点目ですが、このESGの話をすると、皆さん、SRIとどう違うのかと聞きます。簡単にまとめてありますが、SRIと言われると、投資の収益よりも、企業や社会への影響を重視して、あるいは、宗教的な観点で銘柄をスクリーニングする、投資するときの企業をスクリーニングするというネガティブスクリーニングとかで、例えばアルコールやギャンブル、タバコなどを除くというようなことがありましたが、投資の観点からすると、企業価値に影響を与えるような非財務的な要因は何かという観点で、今は収れんというか、そういう意味でSRIからESGというようなことになっています。
さらに、昔は、ソーシャル・レスポンシブル・インベストメントでしたが、今はサステーナブル・アンド・レスポンシブル・インベストメントというように呼び方も変わってきています。ですから、きょうは、ESG、企業の価値に影響を及ぼすという観点でお話をさせていただきたいと考えています。
(PP)
まずこのお話をしなければいけないのですが、2006年に環境計画・金融イニシアティブ(UNEP-FI)と、企業が中心になっているグローバルコンパクトが中心になって、責任投資原則(PRI)というものをつくりました。PRIは、原則そんなにたくさんあるわけではなくて、上の3つが中心になりまして、例えば1に「投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込みます」ということで、ESGという言葉が出ています。2は、株式の所有者ということで、この所有方針と所有習慣にESGの問題を組み入れたということで、ここでもESGという言葉が出ております。それから、3として、その投資判断をするときに、ESGの課題について適切な開示を企業に対して求めるということになっています。
どうしてこういうイニシアティブでやったところがこういう話になってきたのかというと、実は、グローバルな観点で考えると、国と国との間の条約でいろいろ決めて、例えば環境問題や人権問題を議論するとなるとなかなか一筋縄ではいかない。ただ、機関投資家としてできることがあるだろうということで、機関投資家が、投資という観点で、条約に依存しないで役割を果たしていこうということであります。その際、受託者責任の観点に反しないように進めていこうということであります。
(PP)
実際、署名が2006年4月から始まって、ことし5月の段階で1,066機関。この機関の中で、資産保有機関、運用機関、専門サービス提供機関に分かれていますが、年金基金や生命保険などの資産保有機関でいくと、251機関が既に署名して、グローバルの観点では欧州を中心に、北米もあります、オセアニアがありますが、日本は資産保有機関の署名はまだこれからですが、規模的にはかなり大きな規模で浸透されてきております。
(PP)
その際に、UNEP-FIというのは、ESGのファクターが本当に投資パフォーマンスに影響しているか必ず問われる点ですので、そこについて検討資料を集めて、下に論文が書いてありますが、検討した幾つか、それなりに中心的な学会で発表しているようなものや、学会で認められているような雑誌を中心に、パフォーマンスとの関係がどうなっているのかということを見たものです。
お手元の資料では、右側にESG暫定があって、ファクターがマイナスかプラスかということ、負か、正か、中立かというようなことで一応書いてあります。この辺は大体プラスのイメージが多くなっています。もちろん、マイナスのものがありますが、いずれにしても、ESGファクターというのは投資パォーマンスに影響を及ぼしているという見方が広がっているということですから、そうであれば、パフォーマンスが影響を及ぼすというのであれば、やはりこれは検討しておく必要があるのではないかという点が大勢を占めてきている状況であります。
(PP)
それ以前は、受託者責任の関係で忠実義務や注意義務がありますから、SRIというものが経済合理的な限り認められるとか、あるいは、ESG問題を織り込むことは、ポートフォリオ全体のパフォーマンスに悪影響を与えない限り問題ないということで対応されていましたが、あるいは、欧米でも、自分たちでいろいろ分析して、特に問題はないだろうということで実際の投資が始まってきていたわけですけれども、UNEP-FIの調査あたりから、ESGファクターは受託者責任上そう問題がないわけではないというような状況になってきております。
(PP)
日本ではどうかという話になるわけですけれども、受託者があって、委託者があるわけですが、日本の場合はここがお互い、これは1997年に年金の受託者責任の運用の規範というか、それまでは5・3・3・2というものがあって、1997年にそれが撤廃されて受託者責任ということになったわけですけれども、はっきり言って、特に企業の年金基金は必ずしもこれが意識されていない。これを意識するには、委託者が直接言ってきたほうが意識しやすい。ただし、委託者は今までほとんど何も言ってこなかったということがありますので、受託者としてはパフォーマンスだけ気にしていればいいということで、注意義務を、モダン・ポートフォリオ理論とかプルーデント・インベスター・ルールとかを使って、この観点で分散投資を進めてきたということであります。
ただ、パフォーマンスの背後にある非財務情報のようなものも今後は重要になってくるのではないかということですが、ここの受託者責任がまだなかなか根づいていないのではないかという印象があります。
(PP)
そういう観点で、SRIについてもネガティブな意見が多かったのですが、さっき申しましたように、だんだんUNEP-FIのところから、実際にESG投資をするような機関では、反するものではないという根拠をきちんと挙げて投資を始めているということですが、日本の場合、まだ広がっていないというような状況です。
(PP)
そうはいいながら、海外ではそれがどんどん進んで、日本企業にもかなり影響を及ぼしつつあるというような状況になっています。左側に、アセットオーナーということで年金基金や生命保険があります。そして企業があって、海外の公的年金とかなり、PRIに署名していますから、そうすると、ESGの情報が欲しいわけです。自家運用部門があれば直接日本企業に、例えば手紙を送って、ESGの関係はどなっていますかとか、あるいは、児童労働の関係でどういう対応をしているとか、そういうことを直接企業に問い合わせがあったり、あるいは、委託運用している場合は、運用機関が企業に来る場合があります。運用期間も、自分たちで分析できない場合には、ESG評価機関を使って企業に問い合わせが来るということでありまして、ある企業では、年間60件ほど問い合わせがあると。最近は海外からも増えているというようなお話がありました。
ですから、日本の企業は、別にESGの観点で言えば、ガバナンスはちょっと問題があるかもしれませんが、環境問題についてはかなり前からやっているわけですから、積極的に開示したほうがいいわけです。開示しないと、これに対応していないと思われてしまう。そうすると、グローバルで銘柄を選ぶときに日本企業が選ばれない可能性が出てきます。そういうことがありますから、ESGの評価機関あるいはアセットオーナーから来るような質問に対して、積極的に企業は答えるべきだろうと思います。ただ、ここは、そういう認識がないところが結構多い状況になっております。
(PP)
そういう中で、海外ではどうしてESGが進んでいるのかということで調査に行きました。これは年金シニアプラン総合研究機構が、特にヨーロッパの大手の公的年金を中心に、向こうはどうしてESGが進んでいるのかということで調査に行きました。
(PP)
これはまとめのものですが、結局、社会的・文化的な背景があって、当たり前の話ですが、日本とは違って、フランスでは労働組合の影響がかなり強いとか、スウェーデンでは政府主導であるとか、イギリスでは法律で決めているとか、オランダではメディアの影響で、一般国民に訴えて、それでESGが始まったとか、いろいろな社会的・文化的な背景、つまりは、国民というか、加入者というか、それまでかなり意識があって、その影響を受けて法的規制がなされていると。法的規制といっても開示要求です。ESGについて、投資決定に対してどういうESGをどういうふうに考慮しているかということを開示する。そういう開示要求の規制ですが、これは結構大きくて、フランスやスウェーデンなど、自己裁量で許されるという場合ですが、ガイドライン規制でやっているところもあるという今の状況にあるかと思います。
(PP)
ここでエンゲージメントということが出てきましたが、これも、実は運用と非常に関連しております。大手年金を考えますと、アクティブの部分とパッシブの部分に分かれます。アクティブの部分は、運用機関を見直して、ESGをやっているところを採用すればいいんでしょうけれども、パッシブはなかなかそういうわけにはいかないです。パッシブで運用している場合は、パッシブの中で、例えば鉱山でやっているところでは、環境破壊だということで、そうしたセクターを減らすということになると、ポートフォリオがゆがんでしまいますので、なかなか自由に売却できないということがあります。
そうすると、受託者責任上、ポートフォリオの価値をどう上げるのかということになりますので、そうすると、以前からコーポレートガバナンスについて、企業価値を増大させるようなところを考えていたわけですが、これがPRIがどう動くか。ガバナンスだけではなくて、環境や社会などをもって企業価値を上げていく費用がある。売ってしまえばいいわけですが、売ってしまうとポートフォリオがゆがんでしまうので、上げなければいけないので、企業価値を上げるために、実はエンゲージメントを思いますなったほうが効果的だというようなことに、欧州を中心になっているということです。
クリアリングの話は、インターネットを使った議決権行使や意見を述べるようなサイトがあって、ここでいろいろな公的年金が、こういう議決権行使をしますよということで、みんなが情報を見て、じゃ、私も賛成とか、そういうことで、それが企業への圧力になって、企業価値を上げるような取り組みがなされている状況であります。
(PP)
インテグレーションという話がありましたが、これは、ポートフォリオを構築するときに、まず銘柄の選定の順番でソーシャルスクリーニングを行い、フィナンシャルインフォメーションを行う。これを一緒にするのがインテグレーションということですが、要は、今までは財務データだけでポートフォリオの分析をしていた。今、四半期開示が始まって、かなり短期間で評価するような風潮になっていますが、年金の場合は長期の投資が前提で、単年度決算もありますが、長期で投資することになりますので、そうしたときに、非財務情報を使って長期に投資をしたいというのが、リーマンショックの反省を踏まえて、欧州ではそういう動向が強まってきているという状況であります。
(PP)
これは御参考いただいて、こういう位置にあるということです。
(PP)
アメリカも、ESG投資手法はエンゲージメントに効果がありまして、ネガティブスクリーニングもありますが、エンゲージメントがかなり主流になっています。ただ、最近では、SECが気候変動情報開示に関する解釈指針を公表しまして、企業が、決算発表で、自分たちの企業に対してどういうリスクがあるかを開示する必要が出てくるわけですけれども、その中で、気候変動の問題によって、企業の事業、あるいは、法的な展開で、自社の事業に与える影響について開示しなければいけないということが出てきています。アメリカでも、かなりこういう動きになってきているということです。
(PP)
では、日本はどうか。日本は、環境省がかなり積極的に取り組んでおられまして、昨年12月に「持続可能な社会の形成に向けた金融行動指針」、いわゆる21世紀行動金融原則と呼んでいますが、そこで投資先企業にESGの情報開示について積極的に働きかける。そういうことが一応、環境省でそういう指針がつくられて、それに賛同する全国の地域金融機関に署名が広がっていて140を超えています。
労働組合のほうです。連合は、2010年12月に「ワーカーズキャピタル責任投資ガイドライン」というものをつくりまして、非財務情報を考慮するということが書かれているということであります。したがって、委託したとしても、今までは余り意見を言わなかったのですが、やはり委託者の観点からもいろいろと意見を言っていこうというようなことが少し広がりつつある状況かと思います。
(PP)
公的年金で言うと、地共連と全国市町村の共済連合会と両方とも、最近、ESGというようなことで少し、ESGのSRI投資を始めたり、あるいは、全国市町村などではESGの投資のルーチンワークとしてESG指数を使って、なおかつ、指数に連動するような運用を、委託するときに応募資格としてPRIに署名していることというようなことをつけて始めました。ただ、自分はまだ署名していないんですけどね。共済連合会は署名していませんけれども、一応、採用するときは署名しているところしか採用しないと言っているということです。
(PP)
少しそういうことになってきて、これはどういうことかというと、パッシブ・コア、これはアクティブのサテライトの中で、ここのアクティブ運用のところに、ESGに連動するような運用をしようというようなことのようです。これを選ぶのは、日本の場合、アクティブ運用でどの運用機関がいいかというのはなかなか難しいということなので、それであれば、ESGインデックスに連動するようなところを採用したらどうかということで、こうしているという状況です。
それが年金のサイドです。
(PP)
では、ほかの年金はどうかということで、これは年金シニアプランが、昨年アンケートを実施してまとめたものです。ESGについて知っているかということを質問したら、250基金から回答があって、実は余り知らないと。多少は知っているというのが半分ぐらいですが、CSRやSRIに比べると余り知らないし、PRIも認知度が低い。その中で、ESG投資を採用しているけれども、低いです。未実施だがいずれ検討したいというところが36%くらいありますけれども、現実問題としては余り進んでいないというようなことです。
採用理由で一番多いのは、ESGの考え方に賛同したというもので、リターンへの期待、分散投資の一つといったことで採用しているという状況です。
(PP)
今後の課題としては、運用成績の期間がないとか、パフォーマンスに優位性があるかどうか確証が持てないとか、あるいは、社会的に無理なく採用できるような環境が、例えば委託者のほうからこういうものをもう少し採用してはどうかというような声が大きくなってきて、無理なく採用できると。欧州などの例ではそういう社会的な動きになっていますから、そういうことになっていれば採用してもいいのではないかとか、そういう今の状況になっております。
では、ESG投資を行うと本当にパフォーマンスが上がるのかというようなところで若干分析したものがあるので、御紹介したいと思います。
(PP)
左側が企業の中で、例えば企業というのは、ある経営理念があって、もちろん経営理念がない企業もあるかもしれませんが、ほとんどはあるはずですね。経営理念があって、それで経営者行動が基準づけされて、その中で人材活用されて、その経営者行動の中で事業ポートフォリオを選択して、財・サービス市場における競争力を培う。それで付加価値が生産されるということになるわけです。そのときに、従業員という重要な役割がありますし、事業行動のときに環境問題が影響を及ぼす可能性がありますし、経営者のコーポレートガバナンスが影響するわけです。あるいは、社会的な問題も事業ポートフォリオや従業員に関係してきます。ワークライフバランスや女性活用などが関係してきます。そうしたものが、実は企業の目に見えない活力としてあるはずですね。よく話を聞かれるのは、皆さん、ある企業に行ったら、非常に活力がある雰囲気の企業と、元気がない企業があるのではないかと思いますが、そういう目に見えないものをどうはかるかは非常に難しい。
CSPをどうはかるかということですが、この結果は、ここに壁があって、一部が財務データとして出てくるわけです。我々が分析できるのは、この財務データと株式のリターンの関係を分析して、それでポートフォリオを受けてやるわけですが、この辺についてはかなり分析が進んでいますが、非財務情報をどうするかということで、ESGスコアがその一つにあるわけですが、ここがなかなかはっきりしないということがあります。本来は、非財務情報を、ESGの開示される情報に基づいて、このCSPを何とか把握・評価して、それで株式リターンにつなげたいわけですね。
一つは、ここまで飛んでしまうと、財務データの関係がはっきりしないので、まずはCSPと財務データの関係を分析する。その後、CSPと株式リターンの関係を分析してもいいかなということで、きょうは、その例をこの後で、CSPと財務データの関係を分析したものと、ESGスコアを使って、非財務データと株式リターンの関係を分析したものを御紹介したいと思います。
(PP)
これは企業のESGと財務データの関係を分析した、日本総研さんのJRIスコアというものがありますが、これを使って財務パフォーマンス、これのJRIスコアの高い銘柄は財務パフォーマンスが高いのかどうかということを分析したということで、これは回帰分析をするわけですが、ここにCFP、ここのところにもここの財務データ、例えばROAとか労働分配率、労働生産性などをここに入れて、それとCSPの関係を見たいわけです。CSPというのは、ESGのスコアです。スコアの高い銘柄は、このROAが高いのではないかと。そうすると、このβ1がプラスになるわけです。逆の場合は、スコアが高い銘柄がこれが低かったらコストになってしまうわけです。
ただ、そのときに、例えば時価総額が影響するのではないかとか、あるいは、有利子負債が影響するでしょうとか、そういうことがあるので、これをコントロール変数、右のほうにあるのはコントロール変数して、こうしたものを加味した上で、なおかつこのβにどういう効果があるかということを分析してみたということであります。
ちなみに、これはアナリスト協会で報告した資料です。
(PP)
ここのCSPのところで、ROAの方向、労働分配率などを入れて分析したものです。
(PP)
その例の結果が27ページに載っております。残念ながら、これをごらんいただきますと、マイナスなっています。有意にマイナスです。これは困ったことです。つまり、一生懸命にESGに取り組んでいる企業は生産性が低いということになってしまって、これでは投資できないという話になってしまうわけです。
(PP)
それで、ESGの評価は、短期ではなくて長期的に把握する必要があるだろうということで、これは3年間の変化を見たものです。ボラティリティとか株式リターンがあって、ROA変化率というものがあって、ROAが3年間の変化でさっきの分析をしたということであります。そうすると、よかったというか、プラスになって、中には、スコアによっては統計的に有意なものではないですが、中にはプラスのものがあるというようなことでありまして、ボラティリティに対しても、ボラティリティがマイナスということはリスクが少ないということですね。リターンは、ちょっとはっきりしません。マイナスではないということではあります。そのようなことが観察されて、長い目で見れば、ESGに一生懸命に取り組んでいる企業は、財務改善の傾向があるのではないかという感じです。
(PP)
もう一つの分析は、株のリターンを比べたものです。年金シニアプランが文部科学省の科研費を受けて実施しているもので、菊池さん、私、白須さんで、今度発表する予定になっています。問題意識として、東洋経済が指数化しているCSR企業総覧の中にESGスコアがあります。このスコアが高い銘柄は株式パフォーマンスが高いかということで行いました。よく使う3ファクターモデルを使っています。マーケット、SMBということで小型マイナス大型です。それから、これは割安を判定するHMLというファクター。これはFama-Frenchのファクターモデルを使っています。こういう分析は、リターンの分析をするときに一般的になっています。
もう一つ、ここに戻るという、マーケットが下がったものがもとに戻るというものを入れるケースがありますが、ここでは、こういう3ファクターモデルで、αがプラスで、なおかつ有意かどうかを見てみようということです。そのときに分けるわけです。当然、Rを、ESGの高い銘柄と低い銘柄に分けて計算します。
(PP)
東洋経済のものによるといろいろな格付があります。AAA、AA、A、B、Cがありまして、Aというのは、Aとは書いていますが、中間ぐらいの感じもします。したがって、ここでは、銘柄の数も考えて、いいものはAAAを使う。悪いものは銘柄のBとCを選んで、それで分析しようということです。
ただ、時価総額などを見ると、大きな銘柄のほうがAAAになっていますけれども、小型の銘柄は格付が低いような感じがあります。
(PP)
結果は、これを見ていただきますと、高い銘柄と低い銘柄があって、高い銘柄はプラスになっていますし、低い銘柄はマイナスになっています。高いと低いは、αの差は、全てのCSRについてそれぞれ有意な差が出たということであります。
「久保田・竹原(2007)」のファクターリターンの、どのファクターリターンを使うかによってもかなり差があるようですが、このファクターリターンが結果が一番よかったということであります。それで、ESG要因はパフォーマンスに影響しているというようなことですから、やはりこれは考慮する必要があるのではないかと思います。
(PP)
これは参考です。
(PP)
最近、株はよくないですねということを聞くとか、あるいは、リスクは、それぞれきれいに分かれますが、リターンはよくない。何かというと金融です。金融が足を引っ張っているような感じになります。
(PP)
これは、さっきのESGと観点で言うと、MSCIのESGのリターンと、それからFTSEというものがグローバルではよく使われていますが、トピックスがここで、FTSEとMSCIを見たわけですが、実は両方とも、この間は余りよくなかった。トピックスよりもよくなかった。リスクが高くてリターンが期待できなくてよくなかったということです。ただ、トピックスは、配当が入っていないものも計算されて、プライスインデックスというのはFTSEを使っていたもので、参考として、プライスインデックスだけで計算したものも載せております。結局、どうしても大型銘柄中心に展開して、トピックスということをかなり意識した指数をやっているので、ちょっとよくなかったのではないかと今は考えております。
(PP)
これはまとめたものですので、ごらんいただければと思います。
以上です。ありがとうございました。
○吉野委員長 宮井専務、どうもありがとうございました。
大分時間が迫っていますので、1点か2点くらい、御質問をいただければと思います。
では、西沢委員、どうぞ。
○西沢委員 ESGの考え方は非常によくわかりました。これは、GPIFでやるときに、GPIFはパッシブが中心になっていると思いますけれども、エンゲージメントが重要であるということは、今でも政府の運用機関なので、議決権行使でも政府が株式会社なり社債なりに投資しているという微妙なところがあると思います。信託銀行などに委託しているところは信託銀行の名前でやっているかと思いますけれども、その状況ですとか、あと、自家運用で株式とかやっている状況ですとか、ですので、政府が議決権行使するという考え方を整理して、その上でESGで、さらにその先のエンゲージメントということで進んでいかなければいけないので、話はよくわかったのですが、政府がリスク資産運用をするところを整理する必要があるのかなと思いました。
○吉野委員長 議決権行使に関してお願いします。
○大江審議役 私からお答えいたします。
御質問は、インハウス運用というお話がありましたが、私どもは、法律で、インハウスの株式運用は認められていません。したがって、債券のみインハウス運用をしています。その趣旨は、私どもは公的な機関ですので、企業経営に対する影響をできるだけ与えないという発想があると理解しております。したがいまして、基本的に投資一任で運用機関に、信託銀行の場合も投資一任でやっていますが、全て議決権行使の判断は運用機関のほうで行う仕組みになっております。
国から私どもに示されている中期目標の中でも、企業経営にできるだけ影響を与えないようにということがありまして、運用機関が議決権行使をする際も、長期的観点から株主の利益に資するようにという大きな目標を与えた上で、個別に運用機関がガイドラインをつくっていただきまして、そうしたものがつくられているか、そのガイドラインに基づく行使状況がどうなっているかということは、私どもが運用機関の評価の一環としてチェックをしている、そういう仕組みになっています。したがいまして、基本的には、公の機関としての企業経営に対する影響が全体として考慮されていると御理解いただければと思います。
○吉野委員長 駒村委員、どうぞ。
○駒村委員 大変おもしろいESGの話だったので、教えてもらいたいというか、確認させてもらいたいのですが、6ページの国連が集めた評価だと、わりと投資パフォーマンスには貢献するけれども、日本ではなかなか明確に出てこないという理由はどこにあるのでしょうか。24ページのフローチャートを見て、こう考えていいかどうかですが、EとSが、従業員のパフォーマンスに影響を与えることを通じて企業価値が上がるというルートですけれども、例えば、売っているサービスや財の影響を与える、ブランドイメージに影響を与える、日本で言うとユニクロなどは障害者雇用が高いと、日本では「くるみん」というところがあって両立支援をしている、というようなことが海外でも行われていて、社会に神話的な商品に対してはヨーロッパでは消費者が高い評価をしていて、その結果、企業ブランドが確率して、それが非財務データにつながっていく。資料に載っている壁のバリアがちょっと気にはなりますが、このバリアは一体何を指しているのか気になりますが、財務データに反映されて実際に企業価値が評価されて、株式リターンに影響を与えているのかなと。そういう理解でいいですか。
この絵は、そういう消費者ブランドのようなところは余り考えていないような気がしますが。ヨーロッパなどでは、その辺は与えているものでしょうか。
○宮井専務取締役 ありがとうございます。
多分、ヨーロッパなどでも与えているという理解でいいと思います。ここではそういうふうには書いていませんが、特に付加価値ということで、従業員が活性化されて、それで付加価値が上がる。例えば、最近よく言われる女性活用ということがあります。冷蔵庫などを使うのは、御主人よりも奥さんが使うわけですから、奥さんが使いやすいような冷蔵庫が必要であると。そうすると、会社に女性社員がいないと、どういう使い勝手のいいものがつくれるかということになりますから、そういう意味で、女性力を活用して、財やサービスの質を上げていくという観点で考えれば、ブランドももちろんありますが、従業員のそういう活性化によって、生産性もかなり上がるのではないかという考え方の、もっといろいろなルートがあると思いますが、そういう一つのルートですね。
○吉野委員長 ほかにございますか。
では、川北先生。
○川北委員 少しだけ質問したいのですが、今、駒村委員がおっしゃったところとも関係して、6ページのUNEPのところは、すごくパフォーマンスがいいとなっているのに対して、日本のほうは余りよろしくない。かつ、宮井さんが研究されているところによると、東洋経済のデータを使うとプラスアルファが出てくる。その関係を考えると、元データを作った調査機関というのは、東洋経済もそうですし、僕がほかのところで調べた調査機関もそうですが、そのデータを直接使う限りはプラスアルファが出てくる。でも、それが一旦ファンドマネージャーの手に渡り、特に日本のファンドマネージャーが自らの評価基準をも入れて投資対象企業を選択した場合、どうもこのファンドマネージャーの選択がよろしくないのではないかという気がします。それに対して、UNEPのものがすごくいいというのは、この選ばれた20ファンドというのは、どういう性質のものなのか、もしおわかりになれば教えていただきたいということと、今、私がちょっと感想的なことを申し上げましたが、それに対して宮井委員のコメントがありましたらいただきたいと思います。その2点です。
○宮井専務取締役 6ページのUNEP-FIが選んだものは、ファンドだけではなくて、例えばさっき企業のCSPと財務との関係があるかどうかをいろいろな形で分析したものをピックアップした、いわゆる論文であります。その中でEとSGが検討されていて、EとSGの関係がプラスかマイナスかということでありまして、恣意的にではないと思いますが、プラスが若干高くなっているというようなことでありまして、中にはファンドのものもありますけれども、大部分は財務データとの関係だったと思います。
それから、ファンドマネージャーを選ぶとどうしてよくないかというと、多分、短期的なあれになっているのではないかという気がします。あともう一つ、トピックスから離れられない。運用の最終的なベンチマークはトピックスであるというのが一般的になっていますから、ESGだといっても、そこと余り離れた運用をすると、離れることによるリスクが発生するということで、その辺が問題ではないかという気が個人的にはします。
○吉野委員長 どうもありがとうございました。
私のコメントとしては、ESG指数のつくり方も国によっても違うでしょうし、ウエートの使い方も違うと思いますので、そこのつくり方もいろいろ工夫しないといけないかなと思いました。ありがとうございました。
それでは、予定の時間を過ぎてしまいましたので、本日はこれまでにさせていだたきたいと思います。御報告していただいた皆様、どうもありがとうございました。
それでは、事務局から、今後の予定についてお願いいたします。
○原口大臣官房参事官 日程につきましては、改めて調整させていただきたいと考えておりますので、後日、改めて連絡をさせていただきます。
○吉野委員長 それでは、これで終わらせていただきます。
本日は時間をオーバーしてしまいまして申し訳ありませんでした。終了させていただきます。
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